個展「This isn’t Happiness」ステートメント全文

Sunday, March 26, 2017

IMG_3273 This isn’t Happiness 2015年の春から大学で教鞭を執るようになったのだが、あまりに多くの学生が絵描きになりたい・アーティストになりたいと口にするので驚いている。 油画科で教えているので当然といえば当然だし、わたし自身が東京芸大の同科を修了してペインターをやっているのだから言わばその最右翼かもしれないが、思い起こしても若い学生時分、正直一度も絵描きを目指したことがなかったからだ。周りにも作家志望はそこまで多くなかった。 わたしが識っている中で長い西洋美術史をさかのぼっても秀逸な作家になればなるほど幸福なペインターはそう多くない。有史以来、幸せに満ち満ちている作家の作品は大抵おもしろくない。いつも何か物足りなさやら焦燥感やら孤独感やら、その他多くのネガティブな観念に囚われているからこそ、その作家や作品が鑑賞者の深い部分に刺さるのであり、つまりはアーティストという運命的職業が必ずしも幸せとは思えないのだ。 描きたいからではなく描かなければいけないから描いているうちにアーティストになってしまったわたしは、たくさんの若者がそんな美術作家に憧れを持つ現状を、微笑ましかったり少し不安に思ったりしながらも、彼らより少し前を走っている存在として可能な限りのサポートをしている。 与えて与えて与えることが作家の人生だ。 それは幸福ではないが、不幸とも思っていない。 本展にあたり用意した作品は従来と変わらず物故作家の有名作品をアップデートする「After Image」シリーズに類することが可能だ。引用元のマグリットであったりゴッホであったり、幸福に満ちあふれた人生を送ったとはお世辞にも言えない作家をチョイスしたことから、このような個展名を名付けるに至った。

ⓒ SAI HASHIZYME ALL RIGHTS RESERVED.

page top