Friday, July 22, 2011
この数日で急に思い出したのですが、来る8月1日で日本に帰国してちょうど一年になります。
帰国したばかりの時の日本は本当に暑くて暑くて久しぶりの湿気と猛暑にアジャストするのに背いっぱいでした。
この一年で私の実年齢は29歳から30歳になり、あまりにいろいろな出来事がありました。
ドイツやフランスとはまるで違う時間の流れ方に最初は戸惑ったけど、やはり東京生まれ東京育ちの自分にとってホームの素晴らしさを実感する毎日が送れています。
たくさんの人と出逢いました。
悲しすぎる別れも体験しました。
3.11もありました。
そして個展も数年ぶりに日本で見せることができました。
5月にはパリにも半月戻りました。
みんなから歓迎されて、お帰りって言ってもらえて東京以外にも自分に居場所があることに心の底から幸福を感じました。
このパリ滞在で気付いたことは、アジアと欧州の時間の流れ方の大きな違いです。
欧州は成熟というか老成というか、良くも悪くも長い歴史の上に現在があるのでトップスピードで発展する展望を誰も思い描いていません。むしろかたくなに拒否しているかのような印象すら受けます。
それは欧州という大きな単位だけでなく、個々人のレヴェルでも同じで、パリの友人たちから離れていた10ヶ月の間日本を取り巻く状況や仕事の面も含め本当に大きな変化を受け入れた自分にとって、パリに住む彼らの変化の少なさが誰にでも等しいはずの同じ10ヶ月という時間を過ごしてきたとは到底思えないものでした。
断っておきますが、それが悪いことだと言いたいわけではありません。
ただその違いに驚き、自分の在るべき場所を再考するきっかけとなったのです。
欧州ではとにかく何をするにも時間がかかります。
スーパーでの会計、レストランで食事が出てくるまでの時間、ビザの申請、待ち合わせ…
イタリア人の家に夕飯に招待されようものなら、夜八時に集合でそれから小麦粉からニョッキをのんびり練り始め、食事にありつけるのは11時前とかになります。。(耐えきれず他のものを食べようとすると彼らは怒ります。)
ゆったりと時間が流れる欧州だから描くのに時間のかかる油絵も発明され進化していったのでしょう。
帰ってきてからいくらかの絵を描きましたが、湿度・温度の違いで絵の具の乾きが大きく違うので未だに戸惑うことがあります。これは仕方のないことですが。
25歳の時にウィーン郊外に一ヶ月レジデンスで滞在した際、私が走るのをやめた時に初めて欧州のこの成長に対して無欲な空気が心の底から愛せるのだろうなと思いました。
あれから5年経った今でも私はまだまだ未熟な小娘でのびしろだってたんと残っている。
アーティストという仕事に従事している限り変化に対して貧欲であることは必定だし、コンテンポラリーアートを選択している以上普遍性とともに世界で起こっていることを常に自分の中でアップデートするスピードも大事です。
そんな若い私にとっての今の居場所は東京であり日本であり急成長を見せるアジアなのです。
パリでもさんざん友人たちに言っていたのは、本当に日本に帰るという選択をして良かった、ということ。
だって毎日が幸せなんだもん。
家族がいて、友人がいて、暖かな家があって、言葉が完璧に通じて、おいしいご飯があって。
照明と空調が完璧な広いアトリエがあって、質のいい画材が買えて、理解のあるギャラリストに出逢えて。
日本の唯一の不満と言える点は年齢に対する無駄なスピード感。
さっき30歳の自分を若いと形容したことに違和感を覚える人もいるかもしれない。
同世代の友人でも「もうおばさんだし」という声をよく聞く。
自分がそう思ったらそうなんでしょうね。
でも私はまだまだスピード・変化・自由という言葉が似合う年齢だと感じています。
いろいろなことをあきらめてしまっている友人もちらほら。
彼らには私が信じているたくさんのことがファンタジーに思えているのかもしれない。
でも私にとってはそれはおそらく現実で、手にすることがいずれできると思える環境/アーティストという仕事をしている事が幸運だと思う。
普段周囲に見せている様子よりも作品自身の方がよほど私という個人が赤裸々だ。
月末に開催されるアートフェア東京に「Flora」という新作を出すのですが、出色の出来です。
自分では滅多に言うことがないのだけど、この新作はすごく良いと思う。
見る予定の方、楽しみにしていてください。
もちろん今でも欧州は大好きです。
あののんびり感を知ってしまった今となっては、自分が完全なエトランジェとなってリラックスできる場所として欧州を渇望する瞬間がたまにあります。
しがらみの多い日本では不可能な体験。
帰国して一年が経ち、その間に一回パリにも戻ったことによって自分の中で4年半過ごした欧州という場所がどういったものなのか、ようやく整理がつきました。
長い長い冒険だったから、時間がたくさん必要だった。
帰国は私にとって仕切り直し、そして再度生まれる意識で臨んだものです。
だから8月1日は私のリバースデー。
あと9日で新生した私は満一歳になります。
この素晴らしい一年に関わってくれたすべての人に心の底から感謝を。
他者があっての自己だもの。独りではすべてが意味を失う。
私は他人の体温を感じるのが大好きだ。
まだまだ成長中の私をこれからも見守ってください。
最後に友人から教わったソンタグの素晴らしいテキストを書き加えておきます。
私が作家という人生を生きる中で必要と思う一番のことを彼女はこう代弁してくれている。
move around.go traveling.
live abroad for a while.
never stop traveling.
if you can’t go far away,
in that case go deeply into places you can be by yourself.
(Susan Sontag ‘Territory of Conscience’)
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