想うということ 3

Monday, July 2, 2012

またこのタイトルの日記を書く時が来た。 過去をたどってもらえばこのタイトルが指す内容に一つのサブジェクトを見つけてもらうことができる。 私はその人と、至って普通に友人だった。 歳は多分2、3歳彼の方が上だったけど同じ予備校出身で芸大に同じ年に受かった所以から、大学などで顔を合わせるとそこそこ親しく会話をした。 科は違ったけどうちの大学は小さいし、ましてや一年生の通うキャンパスの取手は顔を合わせる面子も毎日決まっているからみんな科を超えて交流していた。 今時の若者らしい個性的な見た目と、むやみやたらにチャラチャラした態度の押し売りのような青年。 私も何度その手のお誘いを受けたか分からない。 それでも彼は嫌われていなかった。 もちろん私も嫌いじゃなかった。 その必要以上に外交的な性格が彼の寂しさの裏返しだと、みんなが暗に気付いていた。 誰もそのことに言及することはなかったけれども。 セルフレームの眼鏡の奥の目は尖ってそうで、でも優しかった。 そんな青年。 だった。 その彼が私が帰国して少し経った頃に縊死していた。 作家として上手くいきかけている時だった。 家族も、いた。 私は彼の作品が面白いと感じていたから、卒業後もたまに思い出しては「どんな活動してるかな?」とネットなどで調べることもあった。 最近はあまり名前を見る機会もなく、時々気にしていた。 そしてつい先日10年ぶりに芸大時代の友人と会うことができ、嬉しい再会を喜びながらこの10年間のキャッチアップをしている中で彼女と同じ科だった彼はどうしてる?と聞いてみた所、すごく遅れてこの訃報を知った。 その瞬間ショックも受けたけど、そもそも卒業後連絡なども個人的に取ったりするほどの間柄ではなかったからいなくなったという事実に実感がもてなかった。 それは夜やって来た。 彼の作品がもう一度見たいと思いネットで調べていく中で、ようやく出来事にリアリティーが持て、一人で抱えることが苦しくなるほど感情が乱れた。 彼の所属する画廊がウェブ上に残している数点の写真作品たちは、たまらなく彼の孤独を映してしまっている。 ひどい時差で彼がもういないということが私の心に届けられた。 一見チャラさが鼻につく彼との思い出は、全部その印象と真逆の、純粋な青年としての寂寞感を目撃した瞬間のものが多い。 遊んでばかりだった彼が本気で一人の女の子を愛そうと、彼女への誕生日プレゼントを私に相談していたこと。指輪じゃ重いよね、でも毎日つけられるアクセサリーがあげたい。だから今回は取りあえずブレスレットにした!と嬉しそうに小さな箱を開いて見せてくれたこと。 そしてその彼女と別れた時、「やっぱ俺には純愛は向いてない」と傷ついた顔で横を向いたこと。 ある夏の日、予備校で講師バイトをしていた彼と私と私の当時のボーイフレンドが仕事終わりに会話をしていて、その日が彼氏の誕生日と知るとおもむろに鞄から何やらノートを取り出して渡した。 そのノートには芸大生らしくとても上手なイラストがびっしり描かれていて、すごい時間をかけて彼が作り上げたものと一見してわかるものだった。 「知らないかもしれないけど、俺たち下の名前同じなんだよ。だからそれ、あげる!」 そういって手渡された私のボーイフレンドは、大して仲良くない彼からのプレゼントに戸惑いながらいちおう受け取っていた。彼と殆ど交流がなく、表面的な遊び人の部分ばかりしか見たことない彼氏は彼のことが苦手だった。その苦手な彼からの突然のプレゼント、しかもなにやら大事そうなもの、いろいろな理由で彼氏は戸惑っていた。 私はなぜ彼が親しくない人間にそんなものを突如あげたのか、何となく分かる気がした。 ただ、私の彼氏にはその仲良くしたい、というメッセージは伝わらなかったと思う。 手の込んだそのノートはさすがに捨てられない、とボーイフレンドの家にしばらくあった。 今はどうなっているのかな。 私たち作家は、いつでも戦っている。 作品や自分や孤独と。 作品を作ることはひたすら自分と向き合うこと以外何ものでもなくて、目をそらすことができない。 苦しい時もそのことに深く深く潜っていくことしか出来ず、それは切り刻まれるような痛みをもたらす。 それでも作品を作ることで何かが今よりは良いものに変えられるかもしれない、そう信じてアーティストという人生を生きる。 切ない仕事だな、っていつも想う。 友人の死を経験するといつも感じること。 みんな「またね」とか言うけど、また会えるなんて保証はない。 明日もあさっても5年後も、その人が元気でいるなんて保証はどこにもない。 だから会いたい人に会って、友人でも恋人でも家族でも愛情を伝えていかないとね。 仕事や煩雑な人間関係に時間を奪われて、一番大事にするべき所に目が向かないことが現代を生きる私たちには多くありませんか。 彼のお葬式にはたくさんの人が来ていたそう。 教えてくれた友人は「あんなに大勢友達いるのに、なぜ」って目を潤ませた。 不器用なI君。 友達としてけっこう好きだったんだよ。 私は悲しいよ。 さいちゃーん ってヘラヘラしながら話しかけてよ。

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